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「介護+保育」が次の切り札

「何で保育園が増えないの?」。保活(保育園を探す活動)する親が抱く疑問だ。少子化でいずれ保育需要は頭打ちになり、今施設を造っても将来は余る、との懸念が背景の一つにある。そんな中注目されているのが、高齢者と子どもが一つ屋根の下で介護と保育を受ける「介保」の連携施設だ。将来、需要に応じて施設を転用できる可能性があり、保育の受け皿として期待が集まる。横浜市のJR港南台駅からバスに乗ると「ふれあいの家」の看板が見える。不動産・住宅建築の三春情報センター(横浜市)が7月に開いた、1階がデイサービス、2階が保育園の融合福祉施設だ。

高齢者と園児、一つ屋根の下

保育園児は原則毎日、午後のおやつが終わるとおもちゃ持参で1階に下り、双方の施設のスタッフに見守られながらデイサービスの利用者と遊ぶ。娘(3)を通わせる母親は「祖父母以外のお年寄りとふれあう機会は大切」と語る。

 

3歳の園児が作ったバッグを見せてもらうデイケア利用の高齢者(横浜市のココファン日吉)

3歳の園児が作ったバッグを見せてもらうデイケア利用の高齢者(横浜市のココファン日吉)

少子化で年間の出生数は100万人割れが目前だ。一方で高齢者の数は激増。65歳以上の割合は26.7%と過去最高を記録した。介護需要が増すなか、国は保育需要は2017年にピークを迎えるとみる。「どんなに今保育園を造っても、10年後にはガラガラになる」とある自治体担当者は話す。必要な子ども全員が入れるほど保育園が増えていないのには、こんな事情が見え隠れする。

このため、厚生労働省は共働き世帯と高齢者の増加に伴う子育て・介護分野の需要増を踏まえ、対象者を限定せず福祉サービスを受けたり、交流したりできる拠点の拡大を推進する。設置基準や補助金の扱いなどを見直し、需要に応じて施設を転用しやすくして参入を促し、保育園不足解消をはかる狙いもある。主に社会福祉法人の保育園増設を期待する施策だが、既に動き始めた企業もある。

 

 

学研ココファンホールディングス(東京・品川)は地域の多世代交流がテーマの施設づくりを進める。2014年開園の保育園「ココファン・ナーサリー西船橋」(千葉県船橋市)は、サービス付き高齢者住宅、デイサービスを持つ「ココファン西船橋」と同じ建物にあり、園児は毎週1、2回、中庭を通って隣接するデイサービスを訪ねる。

当初は各施設の一日の流れがお互いにつかめず試行錯誤だった。やりとりを紙に残す、スタッフ同士が接点を持つといった工夫を重ねた。今では園児と高齢者だけでなくスタッフ同士も交流が進んでいる。

「3歳の娘が、施設内ですれ違うお年寄りにあいさつするようになった」と語るのは東京都北区のAさん(42)。娘を預ける「グローバルキッズ コトニア赤羽園」はジェイアール東日本都市開発(東京・渋谷)が4月に開いた「コトニア赤羽」にある。子育て支援と高齢者福祉の複合施設「コトニア」の2カ所目。認可保育園のほかデイサービス・居宅支援事業所、リハビリ施設、交流カフェなどが入居する。

テナント運営者は別々だが、毎月「ソフト会議」を開き、施設長らが交流の日程や内容を打ち合わせる。保育園の毎月の誕生会には、デイサービス利用の高齢者が折り紙で作ったメダルを持ってお祝いに駆けつける。「人見知りする年齢の園児も泣かずに楽しんでいる」(栗本輝子園長)

「本当にかわいらしい」。てんとう虫の衣装を着て訪れた3歳児らを前に、デイサービス利用者の高齢女性がささやいた。

認可保育園のココファン・ナーサリー日吉本町(横浜市)は近隣のデイサービス施設と交流して4年目。デイサービスに通う世代は園児の祖父母より高齢で見慣れない存在だった。「最初は固まっていた園児も、交流するにつれ握手やハイタッチができるようになった」(増田春美園長)

保育園児と高齢者が日常的に接点を持つにあたっては、細かい仕掛けも必要。「新年度が始まると、活動時の組み合わせを、園児と利用者の性格や相性を踏まえて話し合う」(増田園長)念の入れようだ。学研ココファンも採用時の研修内容に多世代交流も盛り込み、担い手の育成を急ぐ。

■新しい基準づくり必要

介護と保育の連携施設が増えるための課題は何か。認可保育園と有料老人ホームの複合施設を2008年から練馬区で運営するベネッセスタイルケア(東京・新宿)。保育園児と高齢者にとって「複合施設は良いことがいっぱいある」(佐久間貴子取締役)が、介保複合型は世田谷区で16年春に開所予定の第2号まで実現していない。

同社の大半の保育園がある1都3県で、両方の施設に必要な規模の物件探しが難しいのに加え「保育と介護の行政が全く別に動いているため、公募や手続きのタイミングが合わない」。国の普及に向けた政策が出れば「今後は開所しやすくなるかも」と期待する。

施設運営者にとっては、人材を有効活用できるメリットも出てくる。労働力人口が減るなか、保育士や介護職員の人手不足解消につながるうえ、両方の分野で資格を持つ人材が配置できれば、コストを大幅に増やさずにサービス向上が可能になる。看護師や給食調理の職員らが介護・保育双方の施設で働ければ、集約の効果はさらに大きくなる。

社会保障論が専門の学習院大学の鈴木亘教授は「子どもとの交流が高齢者に効果的なのは明らか。保育現場では子どもを見守る目が増える」と指摘。普及と定着には「保育・介護両方の基準を満たすにはコストもかさむので、新しいジャンルの施設と位置づけ、既存施設の活用も含めた新基準が必要」と話す。


家族の責任、最高裁が初判断へ 認知症患者の電車事故

愛知県で2007年、徘徊(はいかい)中に電車にはねられ死亡した認知症患者の男性(当時91)の家族にJR東海が損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は10日、当事者双方の意見を聞く弁論を来年2月2日に開くと決めた。認知症患者の家族の監督責任について、最高裁が年度内にも初めての判断を示すとみられる。

上告審では(1)家族に監督責任があるか(2)監督責任がある場合に責任が免除されるケースに当たるか――が争点。一、二審判決は家族の監督責任を認めて賠償を命じた。認知症患者の急増が見込まれる中、判決は介護現場に大きな影響を与える可能性がある。

一、二審判決によると、男性は07年12月7日、自宅で介護していた妻と長男の妻が目を離した間に外出し、愛知県大府市のJR共和駅構内の線路に入って電車にはねられ死亡した。男性は認知症で常に介護が必要な状態と診断されており、JR東海は家族が監督義務に違反していたとして、振り替え輸送などの費用約720万円を連帯して支払うよう求めた。

一審・名古屋地裁は妻の監督責任は認めなかったが「見守りを怠った過失がある」と認定。別居中の長男は「事実上の監督者に当たる」として、妻と長男に約720万円の支払いを命じた。

二審・名古屋高裁は妻について監督責任を認めたが、JR東海側も安全配慮義務があったとして賠償額を約360万円に減額。長男については「監督者に該当しない」として賠償責任を認めなかった。判決を不服としてJR東海側と妻側の双方が上告していた。(日本経済新聞)


アシックス、通所介護100カ所展開 独自の運動プログラム

軽度の要介護者が自宅から通ってリハビリなどを行うデイサービス(通所介護)に様々な業種が参入している。アシックスは2020年をめどに首都圏、関西の100カ所程度を展開する。住宅街などに施設を出し、独自の運動プログラムで特色を打ち出す。初期投資の小さいデイサービスには建設業などが進出したが、パナソニックやイオンなど知名度と資本力を持つ異業種の大手企業も参入している。今後は淘汰が進み、施設の質向上にもつながりそうだ。

デイサービスの市場は高齢者人口の増加とともに拡大している。厚生労働省によるとデイサービスの利用者は14年度で250万人強と5年で4割増えた。必要な施設面積が小さく、少人数で運営できるため、近年は地方の中小企業などの進出も相次いだ。

アシックスは運動能力の測定技術などを生かして本格参入する。デイサービス拠点「トライアス」を兵庫県で5カ所運営し、ノウハウを蓄積した。16年から首都圏でも展開する。

食事や入浴サービスは提供せず、利用者はグループで平均3時間ほど体を動かす。身体測定のデータを基に一人ひとりにあった運動プログラムを提供する。運動機器にはタブレットを付けて、使用履歴や目標への到達度を利用者に示す。

介護保険の適用により介護度が軽い「要支援1」の場合、利用者は2割の自己負担で月4千円程度を払う。1施設で1日40人程度、年4千万~5千万円程度の売上高を見込む。施設運営で得たデータなどはスポーツ用品の開発にも生かす。20年度に介護関連で40億円前後の売上高を見込む。

デイサービス市場にはパナソニック、東京急行電鉄、セントラルスポーツなど資本力と消費者の認知度を備えた異業種大手の参入が続いた。専業最大手のツクイも大規模施設で最新のトレーニング機器などを特徴に打ち出し、施設間の集客競争は激しくなっている。

厚労省は介護報酬の急増を抑える方針で、15年4月にデイサービス事業者の売り上げとなる介護報酬を他の介護サービスより大きく減らした。

一部のデイサービスはマージャンなどで時間をつぶす「娯楽施設」になっているとの指摘もある。施設の料金体系は介護報酬制度でほぼ横並びになるだけに、今後はサービス水準によって消費者の選別が進み、特色のない中小施設の事業環境は厳しさを増しそうだ。(日本経済新聞)