介護の仕事に携わる人間としてはあまり取り上げたくない事件だが、あえて取り上げる。
川崎市にある「Sアミーユ川崎幸町」という有料老人ホームで起こった、介護職がご利用者様を投げ落としたという事件である。
最初に、この事件の報道を知った時、驚きとともに、『またか』と、なんとも言えない虚無感と怒り、悲しみ、今後に対する不安・・・・心の中が、どのようにも整理できない感情に押さえつけられた。
川崎の事件は、事件を起こした個人が、その人格も含め、罪を問われるべき問題であると考える。しかし、一方で現在介護が抱える社会的な問題をあぶり出し、職員教育のあり方や、介護職の雇用環境のあり方を含め、今後の高齢者介護に関わる様々な問題を再びあぶり出した事も事実だ。
同じ介護に携わる人間として、もう一度、自分たちの仕事に対する姿勢を見つめ直す必要がるのは当然の事。また、介護職のより良い雇用環境を作り出すため、最大限の努力を行う事も法人としての責務だと考えている。ただ、一方、保険制度という制約や、恒常的な人手不足の中、できる努力も限界に近づいてきているという実感がある。
一方、介護の世界にも、技術革新の波が押し寄せてきている。介護動作をサポートする機器や、体操を始めとする様々なアクティビィ−を提供するロボットが開発されている。その中で、ソフトバンクという会社が開発しているのが、人型ロボット『ペッパー』だ、このロボットは、そのソフト開発について(オープンソース)情報を開示して、数100社に上る企業が、ソフト開発を行っている。
正直、今まで、人が人に介護サービスを提供し、そのある意味人間臭さが、介護の世界ではとても重要な位置を占めるのではないか、と考えていた私にとって、介護を機械化するということは、違和感があり、人の温かみがない、冷たい、流れ作業である。など、後ろ向きなキーワードに結びつくことが多かった。
しかし、川崎の事件は、マンパワーで介護することを信奉する危うさを明らかにしたとも言える。
ソフトバンクの孫正義社長は、ロボットを介護の世界で活用することについて「決まり文句でしか接客しない人や型どおりにしか作業しないロボット的な人もいる」とした上で「機械的な人間と人間的なロボットのどちらが癒やされるか」と疑問を投げかける。
介護に従事する私たちにとっては痛烈な批判であるが、正しい批判であると思う。少なくても、見えないところで、弱者を虐待するようなスタッフよりは、ロボットの方がよほど人の役に立つ。
ただ、私自身は、専門性を磨いたスタッフがその専門性に裏打ちされた、人間臭い介護サービス提供できる事業者を目指してきた。しかし、そこに立ち止まることは思考回路の停止である。これからは、新しく生み出された技術を、人が媒介するjことにより、ご利用者様に最適な状態で提供する。そういった時代に変化していく。結局は、技術をどう使うかは、使う側の人の問題である。そこには常に人間臭さが付いて回る。技術に思想をどう乗せていくのか、課題はそこにあり、結局はスタッフがどう成長していくのか、目指すべき課題は明白だ。