ユマニチュードは、ケアをされる対象者さんと、一人の人間として向き合う事から生まれる認知症ケアです。実践すると、これまでコミュニケーションが上手くとれなかった対象者さんと、嘘のように円滑にコミュニケーションが取れるようになることから、魔法の認知症ケアと呼ばれています。
創始者はイブ・ジネストとロゼット・マレスコッティという2人のフランス人で、彼らの35年の体育教師としての考え方と経験から生まれた療法です。
ユマニチュードは“見る”、“話しかける”、“触れる”、“立つ”の4つの基本柱を組み合わせて行います。
“見る”は同じ目線の高さか相手より下から、約20㎝の近距離で優しく目を合わせます。
“話しかける”は、優しい声のトーンでケア中も常に声をかけ続けることです。
“触れる”は、包み込むように優しくゆっくりと触れることです。
“立つ”は、立位でケアするなど1日20分以上は立つ機会を持つことです。
この4本柱を基礎とした150を超えるユマニチュードの技術を取り入れることで、認知症の患者さんの不安や恐怖を和らげることができます。
「私も同じ価値ある人間なんだ」「大切にされているんだ」と感じることで、ケア者との信頼関係が強まります。その結果、無表情だった患者さんに笑顔が戻り、感謝の言葉を口にするなど、驚くべき変化が見られるのです。
ある介護老人保健施設でユマニチュードを取り入れた事例から見ていきましょう。
95歳女性Aさんは、日頃ほとんど言葉を発さず、立腹時にはブツブツ文句をいいながらテーブルをひどく叩いたり、ケア職員に爪を立てたり強い抵抗を示していました。
具体的には肌に触れられることで、触覚が刺激を受け、オキシトシンが血液中にも分泌されます。それが体内に広がることでストレスや不安を和らげるのです。また、脊髄にある痛みを脳に伝えるゲートを閉じる働きもあり、痛みを感じにくくさせることも分かっています。
そんなAさんに “見る”+“話しかける”を取り入れ、目線をあわせ優しく話しかけながら排せつ介助を行ったそうです。結果、言葉を発さなかったAさんは「はい」と返事をし「ありがとう」と笑顔で言葉を返したのです。
また別の施設では、介護を行うのに患者さんのお部屋を訪れるところからユマニチュードを取り入れています。
3回ノック→3秒返事を待つ→再び3回ノック→再び3秒待つ→1回ノック後入室という流れです。もちろん途中で患者さんから反応があればそこで入室しますが、大切なのは相手の反応を待つ、相手に準備時間を与えることです。結果、ケア者もケアがスムーズに行え、ありがとうの言葉をもらう機会が増えたといいます。
ケアを行う側からすると業務として当たり前に行っていることも、相手には不快なことがあります。しかしユマニチュードを取り入れ、相手の反応を見てから行うことで、自分の意思が尊重されたと感じ安心感を与えられるのです。
最後にユマニチュードを行う際の注意点をご紹介しましょう。
理解して行う
ユマニチュードは、ケアも人と人の間で行われるものであるという根本的なことに立ち返り、本質の考え方を理解した上で取り入れてこそ心が通じて相手が変わるのです。
技法だけを知り、やり方だけを真似するのは逆効果になります。目線を合わせていても、優しく触れていても、声色を穏やかにしていても、そこに本質の相手への気遣いがなければ見せかけだと感じさせてしまいます。
ユマニチュードは、ケアも人と人の間で行われるものであるという根本的なことに立ち返り、本質の考え方を理解した上で取り入れてこそ心が通じて相手が変わるのです。
乱暴に行わない
乱暴に扱われると、私たちでも大事にされていないと感じます。そこで、自分の子供に接するような気持ちで相手に触れてください。突然腕を掴んだり、無理に立たそうとするのは絶対に避けてください。
また、ユマニチュードの押し売りもよくありません。まずは“見る”の目線を合わせることから始めていき、患者さんの反応をしっかりと見てみてください。すぐに相手が変わらなくても、根気よく続けていくことで、凝りやがて心もほぐれてくることでしょう。