居酒屋大手のワタミは介護事業を損保ジャパン日本興亜ホールディングス(HD)に売却する方向で詰めの調整に入った。10月上旬の基本合意をめざす。2004年に異業種から参入して注目されたワタミだが、飲食事業の不振に加えて、介護事業の経営面での難しさから撤退に追い込まれた。
ワタミは子会社のワタミの介護(東京・大田)の売却先候補としてパナソニックとも交渉していたが、16日までに打ち切ったもよう。今後は損保ジャパン日本興亜HDと詳しい条件を詰める。
ワタミの介護事業は居酒屋で培った知名度を生かして入居者を集めてきた。しかし、居酒屋チェーンの厳しい労働環境による「ブラック企業」批判でイメージが悪化し新規の入居者が急減した。13年春には9割を超えていた入居率は15年夏には8割を割り込んだ。
さらに、異業種からの参入ということもあって、介護専業の競合他社に比べて「医療法人などへの営業力が弱かった」(幹部)。入居率をなかなか巻き返せず売却の判断に傾いた。
高齢化により介護市場は膨らんでいるが、深刻な人手不足もあって各社の経営環境は厳しい。最大手のニチイ学館も14年度は退職者数が新規の就業者数を上回った。
事業者にとっての収入となる介護報酬の改定の影響を受けやすいこともリスクだ。今年4月には介護報酬が平均で2.27%引き下げられた。事業者の裁量の余地は乏しく、賃上げによる人手不足解消も難しいのが現状だ。
生損保以外の収益源の確保を急ぐ損保ジャパン日本興亜HDは、介護事業者への出資を通じて運営ノウハウを吸収してきた。ただ競争が激しくなるなか、買収が成立しても利益を確保するのは簡単ではないとの見方もある。(日経)